糖尿病の足
diabetes foot
糖尿病は重症化することでさまざまな足トラブルを招き、歩行困難に
糖尿病は重症化することでシャルコー足や足趾の変形により転倒リスクが高まったり、それらが引き金となって足に創傷(治りにくい傷)ができ、なかなか治らずに、切断せざるを得なくなるということもあります。
特に、足病や足の外傷などのトラブルは、糖尿病による足壊疽・潰瘍の要因となります。もちろん、糖尿病の重症化による足部の変形等で胼胝が発生し、傷になる場合もありますが、糖尿病発症前から抱えていた足病が創傷や潰瘍につながることがあります。
糖尿病で歩けなくなる理由①
足病・足トラブル
糖尿病の重症化に伴い、足の変形やトラブルも多くなります。足の変形によって歩きにくくなったり、むくみで今まで履いていた靴が履けなくなるといった、足・歩行に支障をきたします。また、糖尿病の患者さんは白癬菌に感染している割合も高いと言われていますが、爪白癬の場合、爪の変形や肥厚が生じることで、自分で爪が切れない、靴が履けないといったことも起こります。
シャルコー足
足部の骨・関節が壊され、足底が変形する疾患。足底が船底のように膨れ上がるため、足圧分布異常が起きる
足趾の変形
足の中の筋肉や足の骨の間にある筋肉が弱まることで、足趾に変形をきたし、ハンマートゥやクロートゥといった変形が起きやすくなる
胼胝・魚の目
シャルコー足等の変形で足圧分布異常により、皮膚が肥厚する。ねじれの動きが加わることで魚の目(鶏眼)となる
むくみ
糖尿病とあわせて動脈硬化が進行していくと、血流が滞ることで足がむくみやすくなる
靴ずれ
神経障害によって足の痛みや靴のフィット感が分からなくなり、足に合わない靴を履いて靴ずれを起こしやすくしてしまいます
白癬菌
神経障害によって足が乾燥しやすくなると感染に弱くなってしまいます。
足裏の胼胝や魚の目、靴ずれや低温やけどなども、健常であれば痛みを伴うものですが、糖尿病が進行していると、痛みの感覚が乏しくなったり、視力の低下(網膜障害)で足のトラブルに気づかないという自体が起きてしまいます。
糖尿病の合併症の1つである「神経障害」の恐ろしいところは、痛みに対して鈍感になる=身の危険を察知できなくなってしまうことにあります。
糖尿病で歩けなくなる理由②
末梢神経障害
糖尿病の合併症である末梢神経障害には、自律神経障害、運動神経障害、感覚神経障害の3つがあります。
これらの神経障害の中には、前述したシャルコー足と呼ばれる足部の変形をきたすもの、足の痛みや感覚をなくしてしまうものもあり、足と歩行に大きな影響を及ぼします。
自律神経障害
糖尿病の自律神経障害では、足の冷えや変形、発汗異常による足の乾燥等がみられます。
足部に冷えが生じるのは、足底や足趾に存在する動静脈シャント(動脈と静脈を繋がった状態)が自律神経障害で機能不全となり、毛細血管への血流が減少するためと考えられます。
さらに、この血流分布異常は、シャルコー足と呼ばれる糖尿病患者さん特有の変形を誘発します。骨に血流が増し、温度が上昇することで代謝異常が起き、骨吸収(古い骨が壊されること)が促進されやすくなってしまいます。もろくなった骨や関節は継続的な荷重によって破壊されていき、シャルコー足と呼ばれる、足底が膨らんだような変形をきたします。シャルコー足は、発赤や熱感、腫れを伴うものの、痛みがありません。
運動神経障害
運動神経が障害されることで、足内筋(特に虫様筋と骨間筋)が麻痺を起こし、ハンマートゥやクロートゥなど足趾の変形をきたします。
筋萎縮による筋力低下も見られ、下腿の筋肉量が3割減少するという報告もあります。また、バランス障害も糖尿病の患者さんにみられる障害とされていることから、高齢の患者さんの場合は特に転倒に注意が必要です。
参考:横浜船員保険病院リハビリテーション科 河辺信秀, CDEJ News Letter 第 24 号2009 年 10 月「糖尿病患者の運動機能障害」
感覚神経障害
感覚神経は知覚神経とも呼ばれる、体外等からの刺激に対して反応する神経で、糖尿病の合併症としては、手足がしびれたり、痛みや温度に鈍くなったりします。
感覚神経障害が進むと、痛みをほとんど感じないため、釘を踏んでも気づかなかったり、湯たんぽでやけどをしてしまうといったことがあります。
特に、足の感覚をなくしてしまうことで本来の足のサイズより小さめの靴を履いてしまったり、胼胝や魚の目といった本来痛みを感じるはずの足病が放置されてしまうことがあります。
糖尿病で歩けなくなる理由③
末梢血行障害
末梢血行障害とは、末梢血管が細くなることで皮膚や筋肉に血流が少なくなることで生じるさまざまな障害です。
末梢血行障害には閉塞性動脈硬化症(PAD)や、重症下肢虚血(CLI)といった血管障害のほか、歩行が困難になる間欠性跛行(かんけつせいはこう)も挙げられます。
POINT
間欠性跛行
間欠性跛行(かんけつせいはこう)とは、足のだるさや痛みで歩き続けるのが難しいが休憩すると症状が軽減し、再び歩けるようになる病気。ヘルニアなど神経の圧迫によるものでも起こるが、抹消血管の閉塞が進むことで、筋肉に酸素が供給されず起こる。
糖尿病で歩けなくなる理由④
創傷や足切断
上記のような神経障害などの合併症の進行が進み、さらには足の病気や外傷等が加わると、自然治癒で治らない、専門的な治療が必要な慢性創傷を形成し、歩行が難しくなる場合があります。最悪のパターンとして、足を切断することになった場合、その後のQOL・ADLの低下を招き、歩行の回復が難しいこともあります。